意外にも、自分らしくいられない


友人にロジャーって男がいて、仕事はブッチャー。スーパーの食肉売り場で働いて、ガタイがデカくて性格もそれに見合ってガシガシ行くタイプ。まぁ、そういうタイプなんで、彼は逸話には事欠かないんだけど、そのロジャーからかなり意気消沈した声で電話があって、「俺、解雇されるかもしんない」って言うんで、これはタダゴトじゃないな、と理由を聞いたら「いゃ〜、同じ職場のオンナがセクハラしたって上司に言ったんだよ」と。それで「あんた、意外にもヘンタイ?」って聞いたら、「バーカ、あんなオンナに手出すわけネーだろー」って。で、三日後にスーパーに寄って肉売り場の人に奥からロジャーを呼んでもらって様子を聞いたら「上司と話したら、アイツ、ここの売り場の男ほぼ全員に同じ嫌がらせやってるみたいで、誰でもセクハラに仕立て上げてるんだってサ。とんでもネーよなぁ、ッタク」と。ロジャーのために弁明するけど、彼は本当にそんなことするやつじゃないのよ。たぶん、ロジャーのことだから笑わせようと思って下手な下ネタでも言ったんじゃないかと思うんだけどね。

ロジャーに限らず、厄介な人が職場にいるケースってとても多い。さらにややこしいのは、もしその面倒な人がマイノリティー、つまりは女性、同性愛者、有色人種なんかだったらほとんどどんなことがあっても周囲は我慢していて、上司に言ってもとり合ってくれないことも多いのね。なぜか。もし裁判になったら彼らは人権保護団体を後ろ盾にする場合もあるし、そうなったら、人種差別に敏感なこの国では負ける確率が高いからなのね。

すごく矛盾してるんだけど、マイノリティーって確かに数からすればそうなんだけど、この国ではマイノリティの方がかえって法的には保護されてるし、サポート機関もいろいろある。

このロジャーとは別に、もう一人、マイクっていうリタイヤした爺ちゃんが近所に住んでるのね。そのマイクとこのご近所のことを話していたら、マイクが自分に起きた体験を語ってくれた。それは、数年前この近所で12歳の男の子が自殺した時のことなんだけど、自殺する前の一年ぐらい、マイクが外を歩いていると、その子がずっと後ろを着いてきてたんだって。その子の家庭は、近所で家庭が崩壊していることを誰もが認めるくらい、めちゃくちゃな家庭だったのね。

で、マイクが言うには、「あの子は何かを言いたかったんだよ。でも、俺は尋ねてやれなかったんだよ」と。「なんで?」と聞いたら、「そんな子供と、しかも、よその子に親しく話しかけたらチャイルド・モレスター(幼児性愛者)と思われて、訴えられるからだよ」と。マイクはそのことをほとんどトラウマのように後悔していて、涙ぐみながら話してくれたんだけど、同時に、何でも裁判に上げるこの国の人々の体質に、すごく腹を立ててる。

外から見ると、アメリカって何でもオープンに見えるけど、実際、ごく普通の人々が本当に心を開くことができる常態か、というと、これは個人的な感想だけど、全く逆だと思う。法律が邪魔をしていて、冗談を言うことも、手をさしのべることも、つまり自分らしくいることがすごく難しい所だよなぁ、そんなことを、この頃しみじみ思うのよ。

*今月のイラスト:きになる人